<「患者中心の医療」と東洋医学>
家庭医療学の3つのコンポーネントの一つに「患者中心の医療の方法」があります。これは、家庭医療の専門性の中でも集大成のような位置づけにあり、最も重要なものです。図式化すると以下のようになります。

この医療の方法のポイントは、
(1)「疾患」と「病い」の両方の体験を探り、
(2)患者をコンテクストを含めて全人的に理解し、
(3)患者と共通の理解基盤を見出し、
(4)予防・健康増進の視点も取り入れつつ、
(5)患者―医師関係を強化する
ことではないでしょうか?
しかしながら、実際の医療現場では、いくら患者の「病い」を探ってもその対応に苦慮してしまうことに直面することがあります。
「家庭医」としては、なるべく患者の訴えに寄り添い、できる限りの対応をしていきたいと考えますが……。
残念ながら「限界」があるのも事実であるようです……。
そこで、たいていの家庭医は悩みながらも
(6)実際に対応が実行可能であるかどうか?
を自問自答し、結局うやむやな対応で終わってしまうことも少なくありません。
このような「病い」に対応していくうえで、近年は高齢者医療や緩和医療の現場において、「漢方」や「鍼灸」をはじめとする「東洋医学」を治療に活用する試みが盛んに行われており、その効果が期待されてきています。
<ふさのくに家庭医療センターの実践>
ふさのくに家庭医療センターでは、患者の「病い」に耳を傾け、向き合っていくための一つの方法として「東洋医学」を積極的に活用しています。「東洋医学」の中でも特に医師が活用しやすい「漢方」と「鍼灸」に絞って実践しています。
「東洋医学」は、それを追求していくうちにややもすると「科学」からかけ離れた世界に埋もれていく危険をはらんでいます。そのため、「基本的にはどちらの医学の立場で診療をするのか?」を明確にする必要があると思います。
さらに、「患者中心の医療」を実践しつつ「東洋医学」を活用していくためには、 「病い」 の体験の追及だけではなく、「疾患」の体験の方も探りつつ対応していく必要があります。具体的には、症状を取ろうとする一方できちんと原因の追及をすること、NBMに加えてEBMも考慮していくことが大切です。
私たちは、必要に応じて「東洋医学」を積極的に活用しますが、基本的には「西洋医」としての立場を貫き、「東洋医学」はあくまでも「補完」という位置づけにしています。
私たちは、このようなスタイルの家庭医を“二刀流”家庭医と名付け、同様なスタイル家庭医を育成すべく「東洋医学」のトレーニングに重点を置いた特徴ある研修プログラムを作ってきました。
<「家庭医」だからこそできる「東洋医学研修」>
実は、「東洋医学(漢方・鍼灸)」のトレーニングは、「家庭医」だからこそできる研修のスタイルがあるのです。それは、以下のように表すことができます。
「患者―医師関係の強化」⇔「漢方・鍼灸の実践トレーニング」
「家庭医」としての診療をすればするほど、「患者―医師関係」は強化され、以前よりまして「家庭医」に対して気を許してきた患者は、さらに「家庭医」に対しての訴えや要求が多くなっていく傾向があります。
また、一方では「漢方」「鍼灸」は、いくら本や教科書を読んでも実践トレーニングとはならないため、「tried & error」を重ねつつも、実際の患者に試して経験を積んでいくしか上達の方法がありません。
「患者―医師関係」が強化された患者との間であれば、きちんと説明と納得をいただいたうえで、「漢方」や「鍼灸」の治療を試していくことができ、気軽にフィードバックをいただくこともできます。また、治療がうまくいった時には、家庭医は患者の訴えに応えることができたことになり、患者の満足度も上がり「患者―医師関係」がさらに強化されていきます。さらに、家庭医の方も患者の訴えに応えることができたため、自分の診療に対する満足度が上がるといった相乗効果が期待できます。
この様な「良好な循環関係」が続くのであれば、患者も家庭医も幸せではないでしょうか?
ふさのくに家庭医療センターは、このような“二刀流”家庭医を育成するなかで、患者も家庭医も幸せになるような研修を目指していきます。
もちろん、東洋医学といっても大変奥が深く、追求するときりがない世界ではありますが、私たちはあくまでも「家庭医のセッティングで必要とされる」「安全で」「簡便で」「容易に習得でき」かつ「一定効果が期待できる」ような東洋医学の活用の仕方を「プライマリ・ケア東洋医学」と名付けて、その範囲内での実践・研修を行っています。
「漢方」や「鍼灸」などの「東洋医学」に関心がある家庭医の皆さん、「ふさのくに」で一緒に学んでみませんか?
<実際に経験した困難症例>
このような症例に遭遇したとき、みなさんはどのように対応されるでしょうか…
(1)80代女性
- 30年来寝汗で悩んでいた。毎朝布団がびしょびしょに濡れてシーツを交換しなければならず、苦しんでいた。
- 今まで、様々な検査を受けて原因を調べたが、原因ははっきりしなかった。当然、治療法もなく悩んでいた。
- 当院受診し、漢方薬(帰耆建中湯)を処方。しばらくして、汗はピタリと止まった。
(2)20代女性
- 基礎疾患に甲状腺機能亢進症があるが、コントロールは良好だった。
- 3か月以上、両目の奥の痛みに悩んでおり、当院受診。
- 漢方薬(抑肝散)処方し、目の痛みはピタリと改善。
(3)70代男性
- 幼少時より、尋常性乾癬を患い苦しんでいた。今まで様々な医療機関で治療を受けたが改善しなかった。
- 四肢・体幹の皮膚は痂疲化し乾燥し、大量の落屑がみられ、本人も苦しんでいた。
- 当院受診した際、漢方薬(四物湯)を処方。カサカサの皮膚が徐々にツルツルになってきた。
(4)70代女性
- もともと変形性腰椎症を有していた。整形外科に通院し検査や治療を受けていたが、あまり改善は見られなかった。
- 急性腰痛症を起こし、立てなくなり当院を受診。
- 外来診察室で鍼治療を行ったところ、嘘のように腰痛は改善。何事ともなかったかのように、患者は歩いて帰宅。
(5)50代女性
- 職場でのストレスがあり、ひどい肩こりに悩まされていた。
- 整形外科受診し検査を受けるも異常なく、湿布や鎮痛剤を処方され使用していたが、症状の改善はなかった。
- 外来で鬱のスクリーニングを行ったが異常なし。
- 肩と上肢の経穴に、円皮鍼を用いて置き鍼治療を行ったところ、肩こりは著明に改善した。
(6)70代女性
- グループホームに入居したばかりの、アルツハイマー型認知症の患者。
- せん妄が激しく、グループホームのスタッフも対応に手を焼いていた。向精神薬や漢方薬による治療を試みたが、内服自体が困難なこともあり、奏功しなかった。
- 円皮鍼と円錘粒を用いて経穴を刺激する方法を用いて治療したところ、せん妄は7割程度にまで落ち着いた。
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